彼は、アルナベルツ教国の首都・ラヘルに来ていた。
ここは裏に大きな秘密組織があるらしく、黒い噂が絶えない。
ルーンミッドガッツ王国の砂漠の都市、モロクや
シュバルツバルド共和国のリヒタルゼン
麻薬売買、人身売買、生体実験・・・
あらゆる、黒い・・・そしてアンダーグラウンドなものが、
ここ、「ラヘル」に最終的に集中する、と言われていた。
「(これも任務だ 仕方ない)」
アレクシスはそう思った。
ラヘルのホテルのバーでウイスキーを呑む。
普段はアルコール量の少ないものをテキトウに呑むだけなのだが。
目が回る。
『あなたの、右手薬指にでもはめたら』
あの日の彼女の言葉。
ポットリと落とされた、丸い輪。
睨むでもなく
怯えるでもなく
媚びるでもなく
「何もしなかった」彼女。
海の凪を思い出した。
海は少しは揺れているものなのに
彼女はずっとそのままだった。
『あなたの、右手薬指にでもはめたら』
僕は、自惚れすぎていた。
君に愛されているとずっと思っていた。
心の奥で・・・
いつまでもいつまでも
終わらない時計の針の動き
永遠に微笑み掛けてくれると
自惚れてた。
・・・
平気な振りは得意だ。
完璧に演技出来る。
これからも。。
『あなたの、右手薬指にでもはめたら』
今更なのは分かってるよ。
何で今頃。
もう過ぎたことなのに・・・
・・・
グビッ!
一気にウイスキーを呑む。
ふぅ
突っ伏す形で、アレクシスは思った。
・・・
理屈だけで、なんて無理だよ
俺だって・・・人間なんだ・・・
『あなたの、右手薬指にでもはめたら』
何であんなにあの言葉がショックなんだ。
・・・
「兄ちゃん、ちょっと呑みすぎなんじゃないのかい」
上品そうなバーテンの人が声を掛ける。
「大丈夫です」
今更なことを何で考えてる。俺。
今考えてもどうしようもないことを。大昔?のことを。
結論だって全部出ているのに。
『あなたの、右手薬指にでもはめたら』
あの言葉がぐるぐる回る。
もう全部清算したんだ。
自分の気持ちは整理整頓した。
本当にそうだ。
何もかも全部整理整頓したのに。
何故?
『あなたの、右手薬指にでもはめたら』
とてつもない拒絶感。
どうしてあそこまで俺を拒絶したんだ。
あの時の悲しい思い出・・・
愛されてると思ってた
ずっと永遠に僕だけを想ってくれてると思ってた。
花びらたちに包まれながら
彼女はずっと、例え一時的に他に心が動こうとも
最後には俺を包んでくれる・・・そう思ってたんだ。
だって本当にそう感じたから。
この人なら最後まで俺を想ってくれるって。
何故、俺を裏切った。
俺が莫迦なだけだったのか?
自惚れすぎたのか?
淡い世界。
いつしか 彼は眠りの世界へと入っていった。
アレクシスは莫迦ではない。
運が悪かっただけだ。
彼は他で運に恵まれ「過ぎ」だったからこそ、神が天秤を整えたのだ。
起きれば任務が待っている。
彼は普通にいつも通り完璧にこなす。
彼はずっと、、彼女を想う。
何があっても。
ずっとずっと。心の中に彼女を棲まわせて。
BACK「うそつき」 NEXT「友達夫婦」