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追って来る

何で知ってるんだ。

奈緒子『何の罪悪感も感じずに毎日を生きているのか』


トイレから戻ってきて、ずっと震えが止まらない。

奈緒子『何の罪悪感も感じずに毎日を生きているのか』


『ひとつお聞きしたいことがあります。
返事出来ないのならなくて結構。

「この人ならどんなことがあっても見放さない、見捨てない」、と頼られていた人間を、
最後の最後で見捨てたことが過去におありですよね?
その方はおそらく自殺なさった。
あなたは何の罪悪感も感じずに毎日を生きているのか。
すごい奴だな。
感心するよ』


・・・

中学校の頃の思い出。

家が貧乏で、、義父に暴力を受けて大変だと、、
死にたいと言っていた友人を

最後に見捨てた。

白黒フィルムのように覚えている画像。

最後のあの友人の、、美男子だったのだが、
あの男の子の目から、、絶望を凝縮したような涙がぽとりとこぼれていた。


俺は走って逃げた。

うるさいな!
俺は頭が良いから良い高校行かないといけないんだ。
家が貧乏だから。

頭だけが資本なんだ。
今は良い成績を取るのが優先なんだよ。

一回でも失敗したら俺の将来は駄目になってしまうんだ。

「(そう言う時代なんだよ!)」


ハッ

部長から呼び出しを受ける。

「キミも来年定年だしボクもうるさいこと言いたくないンだけどねぇ・・・(チラッ)」

10歳も年下の上司。
特徴のあるしゃべり方。


ひそひそと、どうせあの人もうすぐ定年だし、、と女性社員たちが噂している。
聞こえるように言うのは何故なんだろうと少し思う。


俺には子供が4人いた。

奈緒子(なおこ)は一番上の長女で、一番頭の良い子だった。

何でも察して、何でも見抜いて・・・。

人の嘘や偽りをいとも簡単に・・・。


傍にいる訳でもないのに。

離れて、、というか奈緒子はもう結婚して5年も経っている。


もう、5年も会ってないのに。

メールのやり取りはしていて、適当にニュースの話題をするだけだ。

「(どうして知っているんだ)」
尻尾は一度も見せていない。
それは自信はある。


奈緒子。
おまえは・・・


仕草で分かるとかじゃなくて何かの力でもあるのか・・・。


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二行くらいしか書かないメール。

奈緒子は三十行くらい書いてくれるのに。

でも、気付いたらその時は見苦しいくらいに何十行も機嫌を取るような文章を書き連ねて奈緒子に送った。

奈緒子はあからさまに「焦ってるんだ。プッ」と分かるような返信を寄こした。

そんなのどうでもいい。

許してくれ!
許してくれ!

どうして知っている。
許してくれ!

思い出させないでくれ・・・

笑われてもいい・・・。
それでも優しい返信をくれ・・・


乞食のような気持ちで返信を書いて。

奈緒子はすぐに返信をやめた。


もう完全に俺は負けた。

父親なんて、何の意味があるのだろう?

宇宙が爆発すれば地球もなくなるだろうか?

地球が宇宙を嘲笑い、生き残るかもしれないのに。


後ろを振り向いて過去に捉われて生きていくか、前向いて生きていくか、
どちらかひとつですよね、とイヤミ・・・強がりを書くのが精一杯だ。


後ろを振り向くのは過去に捉われることでしょうか。
前だけを見るのは、状況によっては逃げを肯定する行為にもなります。
繰り返し申しますが、状況によっては、です。

逃げる生き方もそれはそれなんでしょうね。


『逃げる生き方もそれはそれなんでしょうね』


逃げてきたからこそ生きてこれた。
だからこういうことを言われても全然傷付かない。普通は。


一番言われたくない人から言われた。

おまえにだけは言われたくなかったよ。

思ってても言わないでくれよ・・・


そして、奈緒子の返信が止まった、、に至る。


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幼い頃から神童と呼ばれ、あまりの頭の良さに市から表彰を受ける。

高校は県内有数の名門校。

大学は京都大学。

その後、誰もが知る超一流商社に就職。

結婚して、子供も4人も授かり、、

家も買い・・・


ガシャッ!

樹からぶらさがってる。
あれは俺の友人の・・・
体が白くなってる

・・・

壊れた大きなカメラのような、、『ガシャッ!』という音と共に
現れる映像。

あれはきっと映画の中の話だ!!

後ろを振り向いていたらどうしようもないからな!

らんららんらら~ん!
前を向くしかないじゃないか!
わっはっは

人生はあっという間。
人間なんてちっぽけで宇宙は広くて

人間なんて


逃げる訳?
エコーのような奈緒子の声。

奈緒子『何の罪悪感も感じずに毎日を生きているのか』


空を見上げれば宇宙がどんなに広いか分かる。
地球なんてちっぽけさ。

人間なんてもっとちっぽけなんだ。


お父さん。
逃げの達人ね・・・

ね・・・

ね・・・


目が死んだ金魚みたいになっている奈緒子。

いつもその夢を見て目が覚める。


俺はな!!

年収が多い時で二千万いってたんだ!

その俺に勝てるか?ああ?

偉そうなこと言ってんじゃねーよ


奈緒子『だから?』

あの白い、、今にも眼窩から落ちそうな目玉でこっちを見る奈緒子。


俺自身が殺した訳じゃない。
勝手に死んだんだ。

「弱かっただけだ!」
あれが!!

むしろあいつこそが人生から逃げたんだ!


奈緒子『じゃあ無かったことにするのは何故?
向き合わないのは何故?

後ろめたいからじゃないの・・・?
フフフフ・・・』


ガバッ・・・

こんな夢ばかりだ。
最近ずっとだ・・・。


?あの目・・・どこかで・・・
あの目・・・

・・・


妻「奈緒子?誰それ」


うちには3人の子どもがいて、一番上は「久子(ひさこ)」と言う。


久子とメールをやり取りをしていた。
思い出す。

『奈緒子という架空の子供とメールのやり取りをしていた、っていう夢を見ました。
余程疲れているのでしょう』

『そうなんだ。確か、思い込みすぎると本当に念になってそれが具現化するらしいよ?』

『恐ろしいですね』

『神様仏様だって元はそうだよ。悪いことばかりじゃないよー』

『いいことを聞きました』

『罪悪感てのが、私っていう『奈緒子』を創り上げたのよお父さん・・・』


あの目。

あの目は。

久子だった。
そして あの友人でも、、あった。


 
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