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雪の指輪

大紫商事。

北海道にある総合商社である。

ここには「絵縦(えたて)専務」というやり手の専務がいて、
この専務がいてこの会社は大きくなった、と言える。


羽咋(はくい)「は・・・」

絵縦「何だこれは。小学生でも出来るだろ」

また始まった、、とその部屋の社員たちは思った。

女性社員「専務、○○の案件についてですが」

絵縦「君は人が話しているのをさえぎるのか?」
女性「あ、え、、すいません・・・」

しょぼ~~~~ん

部屋の空気は緊張に包まれる。
毎日のことなのだが・・・。


羽咋は東大出のエリートであった。
能力はどう考えてもある、と皆が思っているのに「能無し」の烙印を専務から押されている。

東大出だからその僻みか?とも思われたが
専務は更に上のエリートであった(説明は省く)。


羽咋は最近結婚をした。

家を買い、色んな家具を買い、、様々な契約をして、
貯金がほとんど無くなった。

「(結婚指輪も買う余裕も無くなって・・・)」

「まだ指輪買ってないのか。奥さん気の毒だな」
と嘲笑する専務。

社内の噂はすぐに広まる。


羽咋「×××××!」
絵縦「××」

羽咋「ですがこれは」
絵縦「駄目だと言っているだろう?君の耳はおかしいんじゃないのか」

・・・

無能をからかうのは楽しいよ。
実に愉快だ。

ある日、いつにも増して絵縦が羽咋をからかってきた。



ピラピラ紙をなびかせて挑発的に絵縦は言う。
「右上の日付け。
・・・どうやら、今日は君の誕生日だね11月11日。覚えやすいから覚えてたけど」

羽咋「はぁ・・・」

今日は特別残業をさせてあげよう。
「贈り物はそれ」



一気に暗くなる空気。

・・・

・・・


イラつく気持ちを抑えながらも何とかひと区切り済ませ、
帰り支度を始める羽咋。

寒い。
と思う。

ん?

見るとコートの中に何か挟まっている。

「僕の机の中を見ろ by絵縦」


絵縦のデスクの前に行き、緊張する羽咋。

驚かせるような生き物が入っているのではないか。
パワー・ハラスメントをするような人間だから有り得る。
・・・と思った。


そこには白い包装紙にくるまれた何かがあった。

紐を解くと、何かがポトッと落ちた。


『Happy Birthday!
24歳の誕生日おめでとう。
いつも叱責ばかりして済まない。
無能の上司にいつも付き合ってくれて有難う。

演出のつもりでいつも以上に変なことを言っちゃったけど
まぁ、許してね
指輪、誕生日プレゼント。
換金してその金で買うのもいいね

p.s.
君の奥さんは可愛いね
じゃなくて
君は有能だよv』


ぐわーん・・・

羽咋は固まった。


う、、うぐぐ、、

絵縦の顔が横切る。

手で口元を押さえる羽咋。


・・・

「(どうして
どうして語尾にハートマークをーっ?!)」


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さゆり「えーっ?あの性悪がぁ?」

多分、
羽咋「また明日から同じように色々言われるんだろうけど」

さゆり「わたし、性悪上司からもらった指輪なんていい!
あなたの、、あなたからの指輪が欲しいのよ」

羽咋「それを、曲げてお願い出来ないか」

さゆり「あなたからのだったら、縁日で買う指輪でも世界で一番美しい宝石よ・・・」

羽咋「更にそこを曲げてお願い出来ないか」

・・・

ふたりで見上げる、初冬の空。

指にはお揃いの指輪。


羽咋「寒いね」

さゆり「・・・曲げる。ね
曲がった人でも信じられるかも」

ん?
羽咋が聞き返す。

さゆり「ん。
Happy Birthday!」


 
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