サンフラワー・後編
えー?昼休み時、朱美がすっとんきょうな声を上げた。
「本当?初対面で?なにそれ」
その時のことを思い出したのだろう。
涙ぐむ一歩手前ぐらいのくら~~い表情で乃里は答える。
「まさか嫌われてしまうなんて、、恐がられてしまうなんて。
折角お話出来るきっかけが出来た、と思ったのに」
こういう時カッコ付けの乃里は無理でも平気な振りをするのだが、
そういうカッコ付けをする元気もないようだった。
・・・
何がどうであれ、乃里の暗い雰囲気に「勘弁してよもー!」と親友でもうんざりしていた朱美だったが、、
朱美「・・・もうこうなったのだし。玉砕したら。いっそこくはk、、」
突然和田昭夫教諭が口を挟んだ。
昭夫「それさぁ~、どう考えてもホラ、うん。
あれだねぇ」
腕を組んで鼻からフーッと息を吐いた。
朱美「和田先生、分かりますよね?(笑)」
愉快そうに、同時に心から疲れたようなため息を吐く昭夫。
御免!
昭夫「俺は眠いんだよ。またな。あ、そう。あのほら。えーと
乃里君!・・・あーあれですよ。告白するしかないでしょう」
ガタッ!!
乃里が立ち上がった。
「あの、お待ち下さい。私は嫌われています。告白という意味が分かりません。
和田先生、その計算式を教えて頂けませんか?」
ハッキリとした声だ。
昭夫「そんなの自分で考えなさいよ。
ん?分からないと。
そうか。
分からないなら、、ん~そうだな。
まずおにぎりを持ってきて下さい」
むしゃむしゃ
「・・・話掛けられたら挙動不審を越えて訳の分からない言語を話す=a
スキンシップをされると体を支えられずに何処かにぶつかってしまう=b
乱暴な言葉は使用せず、紳士的な応対=c
aプラスbプラスc。イコール。「アイ・ラブ・ユー」です」
朱美「Oh,close!(惜しい!)」
I'll be suspicious, when I feel you near.
Because I ...
・・・
朱美「言えないんですよ。おっかしくなっちゃうからぁ~」
ふぅ~っとため息をつく。
昭夫「うーん。普通はさ。AとBを足したらABになる訳だ。
でも答えが出せない。分かっているのに
不思議な世界だよね
俺こういう、文系の世界って好き」
・・・「I love youなんて言える余裕もないってことよ」
I'll be suspicious, when I feel you near.
Because I ...
あなたが近くにいる、と感じた時。私は挙動不審になります。
きっとそれはあなたのことがs、、、、
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2014年。
孝文「ははは、そんなこともあったなぁ」
もう孫もいる歳。
今度曾孫も出来る。
乃里「ブドウどうぞ」
孝文「お、・・・全部むいたのか。大変だったろ」
暑かったり寒かったりの、変な気候の世の中、、時代に突入した。
昔とは違う。
うちわでパタパタ扇ぎながら、孝文が言った。
「あれだろ。あんだっけ。『アンナ・カレーニナ』と・・・」
「『源氏物語』と『初学記』ですよ。うふふ」乃里が笑う。
まだあれ読んでるってのがすげぇよな。
「あなた、あれ世界文学じゃなくて「世界文学」「古典文学」「中国文学」、、だったんですよね(笑)」
孝文「ありゃ俺、他のも教えてやろうとしただけだよ?」
乃里「(吹き出しそう)有難う御座います。ご親切に」
あの時のことを思い出す。
「好きです」を「すき。好きはいいですよね~ すきといえばすき、ですよ。すき。あ、今日は何か御用でしょうか?(人形のような笑顔)」と言われ、
「お付き合いしたいのですが」を「お月?お月様ですか?」と返され、
「男女交際を・・・」と笑顔で言うと「交際。交際。男女交際。交際。交際?」と「異国の言葉でしょうか?」と心底疑問な顔で返され。
何を言っても通じない、さっぱり物事が前に進まなかったあの夏の日。
ひまわり畑でシューッと水をまいていたら、
日傘を差した孝文が、「ひまわりですか」と とても落ち着いて声を掛けてきた。
疲れ切っていた(孝文に)乃里はそっけなく「はい」と言った。
その様子に、とても悲しそうな顔をして孝文が帰って行った。
あっ
灼熱の、、太陽。
今と違い、突然寒くなったりせずに一貫して暑い夏。
暑い。
ホースを投げ出して、走って行った。
サンダルが脱げたが、そのまま裸足で・・・。
カッシャーン!!
実に乱暴に孝文の日傘を後ろから倒した。
何の動揺もなく孝文は振り向いた。
「日傘を差すのは失礼でしたね」
太陽の人に対して・・・
『ひまわりですか』
直視出来ない程眩しい花。
『You are my sunshine』
こうして、ふたりは夏の日に結婚した。
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孝文「気候最近おかしいだろ?だからホラ、俺たちのさ、思い出の夏が来てもよ、
なーんか微妙なんだよな」
乃里「そうですねぇ。地球が風邪ひいてるのかしら?」
孝文「ひまわりがちゃんと咲けねぇってのはなぁ」
あら
「私がいるじゃないですか」
「ハハハハハ」
今年も、、どんな気候であれ、このふたりにはいつも通りの夏が来ていて、
いつも通りの夏のあのひまわり畑が、、広がっている。
