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ひとかけらの

道子はその夜、会社で暗い中、ひとりで仕事をしていた。
コーヒーは飲みすぎると逆に眠くなるため、ひたすら水を飲んでいた。

(お茶も駄目。カフェインは摂り過ぎると眠くなる体質)

ふと、先ほどまではなかった場所に吹き出物が出来ていることに気付く。

・・・

・・・

昭雄『この前ね、すごい笑わせてもらったよ。いやー笑った。
ずっと前はあんなに恐いの書いてたくせに。
君の脳みそってどうなってんの』

幹 昭雄(みき あきお)。
道子の上司である。

道子の仕事は、日常のエッセイを書く仕事である。
とても短いもので、その会社の出す雑誌の10ページほどだ。

道子「(幹さんは私に甘いんだから。
他の人にはあんまり通じないのに)」




ハッ!
真っ暗なオフィス。

気付いたら寝ていたらしい

「(だっ誰が電気消したの・・・)」
ゆっくり立ち上がり、電気スイッチがあるところに手探りで行く。


カッタ~ンッ!

突如、階段側から結構大きめの音が響いた。

さすがにビクッ、とする道子。

汗をかきながら電気を点け、、
そーっと階段の方へ行く。

「(まさか泥棒?えーっと、警備会社?
それとも・・・け、警察?
ぶ、武器・・・!)」

連絡をしなければいけないのに、何故か足がどんどん前に進んでゆく道子。


音が響いたのは階段の上の方だった。
上のフロアに行く。

そこで何故かドアが開いている部屋があった、ので
彼女は入った。

「誰かいますか!!」

威嚇?のために大きな声を出す彼女。


道子「(え?)」

そこに、妙に気になるデスクがあった。
何か特徴がある訳ではないが、目が離せないオーラがあるというか。

「公望(きんもち)さん・・・」


珍しい名前のため、苗字ではなく名前で呼ばれていた、公望という男性。

・・・

本来なら、今夜彼女がひとりで遅くまでやらなきゃいけない仕事は、
彼とのものだった。

しかし彼は1ヶ月前、統合失調症で退職したのである。
昭雄『休職じゃ、駄目なの?いきなり退職とかじゃなくて』
昭雄の説得にも関わらず、公望は退職してしまった。

・・・
道子は公望が苦手であった。

すぐ傍にいるのにメールで連絡しようとする。
人と話す時は完全に真横を向いて話す。

誰に対してもこうである。

本人のせいではないのは分かっているが、
他にも何か秘密がありそうで、なるべく彼と接しないようにしていた。


ピッ!
ピリリリリリリッ

突如鳴る携帯。

道子は内容を分かっていた。

「はい」

昭雄「寺田(道子)君?いやちょっと不味い事態が。
公望君が自殺しましてね」




遺体が発見された時、公望の遺書に、
「寺田さん、御免ね」
と書いてあった。

第一発見者である昭雄は、その遺書の『寺田さん、御免ね』から
ただならぬものを感じ、
命の危険すら感じてパニックになって電話してしまったということだ。
状況が状況なだけに、そうであろう。


昭雄は霊感が強く、公望に似た芸能人がテレビに出た瞬間に全身が凍り付き、
気付いたら彼のアパートに向かって行った、とのことであった。


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ある日曜日。

昭雄「彼にとって、寺田君が唯一、『本当にいる人』だったのかもな」
道子が振り返る。
道子「え?そんな・・・」

昭雄は少し切ない顔をして下を向いて言った。
「君は、唯一の人だったんだよ」
「・・・」

何が何だか分からない、不条理で作り物のような世界の中で、
確実に「いる」人だった。

彼はまぶたを閉じる。
「きっとな・・・」


最後に目を合わせて会話をしたかった。
仕事を押し付けてしまって御免、と目を見て言いたかった。


そうだったのか・・・
 

 
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