時空を越えて
もやがかった、数ヶ月前。愛凛がまだ居た頃。
朧浪(ろんらん)とコウの元に。
たまげた
朧浪「おっまえ頭良いなぁー」
人を褒めたことがない朧浪が驚いたように愛凛に言った。
愛凛「ん。ありがと」ニッ
愛凛は短くニコッとした。
コウ「ハーブティですよ。カモミール。
どうですかお勉強は」
コウが部屋に入ってきた。
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ロンローン!
(朧浪の愛称)
愛凛が習字セットを抱えて屋敷をうろうろした日があった。
・・・
『彩織』
朧浪「ツァイチー(彩織)?」
私の名前になるはずだったの
今の名前はお父さんが付けたものでね
書いてみたかったんだ
朧浪「へー」
おにーちゃんに子供が、、女の子がもし生まれたら『彩織』って付けるんでしょう
省略するが、愛凛は泣いた。
お母さんがとても恋しいようだった。
朧浪は愛凛を抱きしめた。
父親がずっと傍にいなくて 母親と兄と一緒に居るという背景があったから、
母親が絶対者だったんだな
と。思う。
朧浪は愛凛の頭を撫でた。
「(迷惑が掛かるから、・・・と自ら母親の元から逃げ出したんだよな。
この子は)」
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朧浪さん!
朧浪さん!
ぽかぽかした陽気な朝。
すっかり新妻風な感じになっているコウが朧浪を見下げていた。
ニッコリ笑って言った。
コウ「おっはようございます!」
ざ・・・ん
すぐに場面が変わる。
夕陽だ。
朧浪は、溟渤(みんお)から授かった「名賢の珠」を海に勢い良く投げて、、波がざぶんさぶんっとゆらいでいる海を見つめるコウを 見守っていた。
何も声を掛けられず。
ずっとそのままで。
私の「主君」は
『史 朧浪』ただひとり、なんです。
溟渤様には想う方がいて、お子様がおふたりいて。
それが「血族」で
誰も立ち入ってはいけない・・・
溟渤様は
いつか私がちゃんと学んで、名賢の珠を海に返すことを知っていて・・・
「私を信頼してくれて、くださったんだわ・・・」
朧浪「・・・」
神様。お許しください。私は誓いを破ります。
永遠に誓っていた、、「名君、賢臣の誓い」を今破ります!
お許しください!
私には溟渤様が全てだった。
でも
もう、私が大切なのは「溟渤」ではない。
朧浪・・・。
・・・
その様子を、後ろの建物のテラスからキセルを吸って見守る義渠(ぎきょ)。
『出来ません』
義渠『ならこの話は白紙だ』
(第5話:龍と香)
・・・
義渠「(主君を裏切らず、・・・最後には夫を取る。か)」
「人選は間違いないようだったな、朧浪・・・」
つぶやく義渠。
血、血族の長である義渠、
息子朧浪。
海の神溟渤、
臣下洋香(コウ)。
義渠が消え、溟渤が雲隠れ、
全てが消えて。
それでも、、
血が続いてゆくのを
永遠に
朧浪とコウは見守ってゆく
空間を越えて
時間を遥かに飛んで
時空を越えて。
溟渤という海から、空へとはばたいてゆく。
愛人(アイレン)!
ばったん(朧浪が倒れた音)
あいれんあいれんあいれ~~~ん
あの日の繰り返し。
ずっとふたりは楽しく寄り添い。
人々を見守っていく・・・
(了)
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