起
靖子「異世界の扉って本当にある気がする」喜多豊(きたとよ)高校。
下校時の会話である。
夏だからかオカルト話が自然と盛り上がるのだ。
千花「多分作り話よねー
昔は私も良くだまされたけど」
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「木原先輩、週末、空いてます?」
木原悟(きはらさとる)。賢木千花(さかきちか)の先輩である。
ふたりは空手部の先輩後輩で、とても仲が良かった。
部活で一緒にいるのはもちろん、校舎の外で会えば自然と寄り添う、といった具合である。
しかし特に付き合っているなどはない。
悟は「うっ」と厭な予感がして
「いや、週末は予定が」と言った。
ニコッと笑って千花が言った。
「色々、見ていることとか知りたk、、」
・・・
悟「・・・行こう」
くるっと振り向く千花。(くるくる歩いていた)
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悟は変態であった。
もちろん、普通の意味ではない。
(どういう意味・・・)
千花を見ているのである。いつも。
千花は気にしないようにしていたが、
とうとう我慢が出来なくなった。
「何でそういうことするの!やりすぎでしょうが!」
とカンカンになってしまった。
しかし本人に聞くのは失礼だし、、どうしたものかと思案に暮れていた。
罠を仕掛けていたりしたのだが、ことごとくひっかかる。
さすがにもう懲りただろうと思っても懲りた様子が無かった。
夕暮れ時のファミリー・レストラン。
千花「普通だったら今は練習してる頃ですよね(部活)」
腕を組んで言う千花。
悟は静かな顔をして黙っていた。
千花「何でやめないんでしょう」
悟「見ていない」
周りの人間たちは「高レベルな言い争いをしている・・・」と勝手に思って声を小さめに話した。
千花「何のつもりか分かりませんが。
やめてもらえませんか」
悟「見ていない、と言っている」
千花「・・・はい
良く、分かりました」
ガタッ
千花は立ち上がった。
パサッとお札(おさつ)を置き、言った。
「せ、正攻法でっ、、来て欲しいです」
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秀一「・・・で。正攻法で未だ行けないと」
昼食時である。
悟「・・・」
栄吉「いーじゃん行っちゃって。
男らしく行っちゃいなよ」
悟は今までず~っと千花が様々な男子と付き合うのを見てきた。
その都度、「分かってないな」と千花を莫迦にしてきた。
悟「(・・・何だか面倒臭いな)」
悟は全てが面倒臭くなってきた。
自分が千花とどうこう、という状況を考えていなかったのである。
千花の情報を得、千花の信頼を勝ち取り、千花の兄的存在になる。
それのための努力は惜しまなかった。
悟「(見事達成した。詰めが甘かったか・・・)」
悟は頭が痛くなってきた。
正攻法、という言葉。
「(深い意味ではないだろう)」とぼんやり思う悟。
イケメンな不良、栄吉が聞いた。
「なんで付き合わないの?おまえら仲良いじゃん」
悟は病的な臆病者であった。
秀一「賢木さん。また誰かに取られちゃうぜ」
悟は取られ慣れしている。
どうせ千花は根が真面目だから不健全なことは絶対にしない。
だから安心だと100%思っていた。
悟「あいつはただの後輩。何とも思っていない」
栄吉「おまえさ、根が暗いよな(汗)」
・・・
靖子「おーっ、あの丘の。木原先輩じゃん?」
結衣「あ、ほんとだ」
千花は一瞥し、くるっと背を向けた。
「あんな根暗な人嫌い」
目を点にする女子ふたり。
「・・・護符とか作って祈ってそう。
根暗だから!」
ぶあっくしょっ
丘の上では悟が盛大なくしゃみをしていた。
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