ふることふみ

新解釈の古事記 
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第8節:阿閇皇女(あへのひめみこ)

第3話:あの顔


安萬侶はいつもいつも不思議な感覚に包まれていた。

『古事記(ふることふみ)』と言う存在を、前から知っていたような気がする、と。
前世で何かしらあるにしても、「今、この瞬間」に古事記と言うものがある訳で、
一体いつからこの存在を知っているんだろう??

と不思議だった。

これを、ちゃんと残したいとか
掴みたいとか
どうして自分は上り続けているのかとか

何を記し、人に知らせたかったのか?

空想的な自分に気付くと、莫迦莫迦しいと頭を振るのだが。

物に反射する自分の顔を見た時に
あれ?と思うのだ。
これは自分の顔じゃないか!と。

それはそうだ。
しかし自分は自分でも、「ある自分」の「自分の顔」という感覚なのである。

例えば、
今の自分が「A」という存在だったとしよう。
それとは別に、違う世界で「B」という存在だったと仮定する。

AとBは同じ顔をしている。
そして自分なのである。

違うのは生きている世界。

たまに自分の世界の顔、つまりAの顔なのか
違う世界の自分の顔、つまりBの顔なのか
見分けが付かなくなる、というとても奇妙な感覚に襲われた。

もしかして、古事記を知っているということに関係があるのだろうか、と思った。
未来の世界で自分はまた同じ感じの、、つまり同じ顔をして同じ性質・人格を持って生まれていて、

未来の自分が「古事記についての資料がない。ああ!その時代に行きたい」と願い
今の自分として生まれ変わったのでは。と

だとすると
未来の自分(B)がまず最初に生まれ、
その後に今の自分(A)が生まれることになるのだから、
時間軸的におかしくなる。

しかし、恐らく自分は頭がおかしくなったのだろう、と呆気なく認めた。
世間一般から見ると「お疲れなのでは?」という状態だが、
自分ひとりがこの事実を認めてあげればいい。
これを事実だと固辞するのは自分に対してだけで、
後は世の中の意見に合わせとけ、と思った。

そのおかしな感覚は彼の胸だけに留めておいた。


稗田阿礼は、安萬侶が亡くなる直前に、
聞いて下さい、と言われてこの話をじっくりと味わうように聞いた。

が、四書五経、六法全書、日本国憲法全てを立ちどころに覚えるであろう稗田阿礼が、
この安萬侶の大事な記憶だけは、すぐに忘れてあげた。

聞いた後に何もかも忘れなければ、何かいけないと思ったからだ。

もちろん、記憶のコントロールなんて出来る訳がない。
あれは覚えよう、あれは忘れよう、なんて自在に出来る訳がない。

勝手に脳みそが全部覚えてしまうのだ。
そういう脳みそに勝手になっているのだ。




彼は書斎で何か書き物をしていたのだが、
何かの音と、後ろからの妻の呼び声にハッとした。

驚いて後ろを振り返ると、いつも通りの妻の顔。

「あれ??あれ??え?」

いつもは真面目過ぎる夫が、彼にしては無防備な姿をしていたので、
妻は驚いた。

ただでさえ無口であまり多くを話さない夫が、
「僕は今黙ってますが、意図して黙っているので良かったら話し掛けて下さい」オーラを
かもしだしている次の日。

やだなぁ。関わりたくないなぁ
で、でも・・・

かつ(妻の名)は勇気を出して話し掛けた。

「なっ、にかっあった?」


第7章:その他「第8節:阿閇皇女(あへのひめみこ) ー 第3話:あの顔」


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