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およう

昔、秩父の山奥に「岳彦」という若者がいました。

その武力を認められ、とある大名のお屋敷の門番として働くことになり、江戸の町を目指して歩いていました。

時期は冬に近い秋。

だいぶ寒くなり、ある日山奥で狼だか熊だかの気配を感じ「こりゃどこかの宿を借りるか、、一旦引き返すしかない・・・」

そう思って途方に暮れていたら、

山の中に翠色に近い水色の服を着た女が道端に倒れているのを発見しました。


「・・・(こんな山中に何故女?)」

不思議でしょうがなかったのですが、駆け寄り、「大丈夫か」と揺さ振りました。


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どうも助かりましたよ。

岳彦は上着と笠を脱ぎ、囲炉裏の火で暖まりました。


およう「気付いたら人にあんな姿を」

岳彦「いえいえ、あんなに寒かったらそりゃ、、まぁ気にすることないですよ」


おようは山の中で独りで暮らす女性でした。

それまでは両親がいたのですが、遅くに生まれた子だったのか、早くに早世してしまい
ずっと独りで暮らしていた、、とのことでした。

山菜をいつも通り摂ったりしているうちに、あまり食べていないのと寒いのとで
無理がたたっていつの間にか倒れていたのでした。


岳彦「(それにしても、、ずいっぶん・・・青い顔しているよなぁ・・・汗)」


無理をしているとか栄養失調だとかにしても、

「(幽霊みたいだ)」
本気でそう思いました。


パチパチパチ

囲炉裏の火。

これも、薪が必要だ。

薪を用意するのにも全部独りでやっているのだろう。


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あなたは何も気にしなくていいのですよ。
俺が全部やります。
これからは幸せにならないと。


およう「岳彦さん、見ず知らずのあなたがどうしてそこまで」


岳彦「(・・・いや、それはまぁ。あれだよ)」


「困っている人を放って置けないだけです。
それに・・・若いのにもったいない。ずっとこんな山奥で・・・」


あの、ひとつ約束してもらえませんか。と、およう。

岳彦「はい?」

私のことは人には伏せてもらいたいのです。

「この山で独りで住んでいたとかそういうの」


「(独りでいたとかそういうのを知られるのが嫌なのかな)」
まぁ・・・色んな価値観あるし。
そういう人なんだ。


岳彦はおようが気の毒で「一緒に、、なりませんか?」と求婚を申し出たのです。

苦境を救いたい、、そういう正義感もあってのことでした。


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声はかろうじて聞こえますが、その奥にどうしても入れません。足が動きません。


岳彦「およう!俺は、、どうすればいい?どうすれば償える」

おように聞こえるように大きな声で言いました。


「私と、、あなたの縁は尽きたのです。このまま、終わりに致しましょう」

おようの か細い声。


おようは、山に棲む妖怪でした。

人を食べないと生きていけないけれど、どうしても嫌で、山菜などを食べて人を食べないように生きているうちにどんどん顔が青くなっていき、幽霊のようになっていったのです。


「俺が、、俺が悪かった!」

『私がこの山に住んでいるというのは伏せておいてください』
そういうおようの言いつけをすっかり「な〜に言ってんだ」と軽く考えた岳彦は

「あの山で知り合って結婚したんだよ〜」とつい人に言ってしまい、

山の伝説、、言い伝えを知っている村人たちから「そいつは妖怪だ!!」とバレてしまったのです。


長い時間が過ぎました。


岳彦は覚悟を決め、ガッガッとその中に入って行きました。


おようの座っている後ろ姿が見えました。

「俺はおまえの夫だ!おまえが妖怪で、、人を食う化け物なら、、

夫としておまえを成敗しなければならない!

俺のけじめだ!覚悟しろ化け物め!」


くる・・・ おようは振り向きました。

・・・

岳彦の、、剣を持つ手が震えていました。


「およう・・・何故、、どうして 逃げないんだ」

俺に殺されるのを待っているのか・・・


ふたりは見詰め合いました。


およう

カラン・・・
剣が落ちました。


岳彦はおようを抱きしめました。

出来る訳、、ないじゃないか。
俺たちは夫婦なんだから・・・


俺があんな軽率なことさえしなければ・・・


メェェ・・・


おようは鳴きました。


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長七「・・・それ本当の話なんですか?」

岳彦「まっさか。信じた?」

もうすっかりヨボヨボな歳になっている岳彦。


ハ〜ッとため息をつく長七。

びっくりしましたよ。まるで本当のことのように言うから。


岳彦はある山を指さして言った。

「あの山に伝わる伝説だよ」

誰に聞いたんだったかな〜本で見たのかな?

「忘れちゃったけどね」


長七「でも、、何か悲しい話ですね」



長七は背を向けて、門番交代の時間に間に合うように早足で去って行きました。

・・・

岳彦はそっと山を振り返りました。

「(およう・・・)」


メェ・・・

おようの声が 聞こえたような気がしました。

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皇なつき著『花情曲』内「虎嘯」参照


 

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