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桜の魔法

智(とも)。5歳である。

夜の中、艶やかに咲く桜を見ていた。


ママは「桜は見ちゃ駄目!魔法が解けちゃうから!」と言っていた。
ずーっと前から。


「智くん!何やってるの!風邪ひくでしょ!」

チリンチリン

母親が自転車で探し回っていたらしい。



ママチャリ(懐かしい単語)の後ろに乗りながら、、ぼんやり浮かぶ光景。

霧の中の、あの桜。


「(ものっすごい怖い感じの、、そんな人がベーッて舌だして・・・)」

桜からぶら下がってた。

そんな、ぼんやりとした幻想。



ガチャッ

ビクッ どうせ来るだろうと思っていたからびっくりする。


勇(ゆう)。3歳。智の弟である。

「おにいちゃん。なにかあったの」


どっきーん!


沈黙が流れる。


勇は霊感がある。

初めは家族全員が恐れおののいたが、智の家ではそれが常識になってしまった。


「なっ なにもないよ!」

男は悲しい。小さいうちから虚勢を張ってしまうのだから。


悲しそうな顔をする勇。

「げんじつをみてね」


初めはバカにされたように思って思いっきし怒ってしまった。


それはそれは怒りまくったので、勇はしょぼーんとしながら自分の部屋に帰った。


気付くべきだったのだ。幼児が伝えたいことを上手く伝えられる訳がないことと
何故小さい子であるべき 智、と勇が違う部屋を持っているのか、ということを・・・。


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グハッ!

飛び起きる。


気持ち悪いほどの寝汗だ。


思い出した。

あの顔

「(ママの顔だ・・・)」

怖い、、霧の中の桜。ぶらさがっていた女の人。


じゃあ今のママは?


・・・

智は恐くなかった。

どういう存在であろうと、、ママはママだから。

痛くないのかな、とか今のママは偽りかもしれないけどどういう事情なんだろうとか。


もっと歳がいっていたらものすごくパニックになっていただろう。

まだ何も知らない、小学校にも上がっていない幼い子であるがゆえに、驚かなかったのであろう。

(子供は基本ママが好きであり、どういうことであっても結構驚かない)


下の階に下がって行った。


「(やっぱりねっ!)」

マンガみたいな展開だ。


パパがすぴ〜とシングルベッドで寝ている。


・・・

ショックがでかすぎたのだろう。

すごく冷静になる智である。

それこそ殺人現場で、冷静に被害者の歳、年齢は?その場の状況は?あ、これ鑑識回しといてくれ、と言う刑事さん並みに。


仏壇・・・

と思ったらすぐに部屋の隅にそれらしきものを見つけた。


クモの巣が張っている。

「(超きたねぇ・・・)」

思わず後ずさりする。

「・・・?」

写真立ての写真。


田中好子(女優)の一番キレイだった頃の何倍かキレイにしたような美人。

「・・・」

呆気に取られる。


うちのママ、、若い頃こんな美人だったんだ・・・

脂汗が出てくる智。


あまりに美しいと、「キレイー!」と子供らしく思うより「こわい」と思ってしまうのだ。


こんな、、美人な人が、、あんなベーッて舌出してぶら下がるって、、


今更恐くなってくる智。


そんなとき

「げんじつをみてね」

の勇の言葉が襲い来る。



こわいこわいこわいこわいこわい!

初めはガクガク震えていたが、頑張ってパパを揺り起こした。


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パパは教えてくれなかった。

高校生になって、やっと親戚の人の噂話とかそういうので知るようになった。


美貌を妬まれてものすごく辛い目に遭っていたらしい。
だからあんなことに・・・

勇「部屋がふたつあったのはかーちゃんがいなかったからなんだよな」


『桜は見ちゃ駄目!魔法が解けちゃうから!』


勇は言った。

「お兄ちゃんはぼんやりしているから、だませそうだって思ってだましてたっぽいね。
あとお父さんもね」


げんじつをみてね

お母さんがいない、っていう現実を見てね


だった。

「御免な」

謝る智に、「いや、普通怒るよな(笑)」と返す勇。


普通は、そんなことがあれば桜が恐くなる。

好きな女性に関連していても・・・


「でも、お母さんだから恐くないんだよな」

と言う智。

「ま、ほらさ、かーちゃんて永遠の女だからさ」と勇。

うん、、


どういう姿だろうと、怖い姿だろうと、お母さんはキレイだよ。

桜が舞う。

涙を流しても、多分恥ずかしくない。


そう思ったら、涙は出て来なかった。


 

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