現代ファンタジーのオンライン小説 - ものもの

小さな図書館。
いや、図書「室」。

と言うより書斎を図書室風にした、部屋。


青年が四つんばいの状態で目の前の少女に手を伸ばしている。

「ごふっ ごふふっ ごふふっ」

晶「紀依・・・どうして・・・?」

毒を入れた飲み物を飲まされ、むせて、、そうなったのである。


『紀依』
黒目で生きていない目を持っている、人間としての機能が失われた少女。

紀依「・・・・・・」
毒を入れて人をこんな風にしたのに
何も感じていない、不気味な様を呈していた。

晶「紀、、ぎ、、紀依ぃいいぃ」
かすり声で青年は、、苦しげにむせていた。


紀依!

「あんなに優しかったのに!」

信じられない・・・

と言おうとしてゴフッ!と血を吐く。


ウフフフ


いい気味・・・

「あなたがいけないの。・・・私に母親像を求めすぎるから」

・・・

うざったかったの・・・

あなたの、、母親を求める内なる狂気的な叫びが。


晶「紀依・・・?」

もう声はほとんど出ていない。


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『晶(あきら)、紹介するわ。竹野紀依(たけのきい)さん。
可愛いでしょ。
お母さんのね、遠い親戚なの。
ぺらぺら』


清らかで生きていない目を持つ可愛い子。

ひと目で気に入った。


いつも何もしゃべらない。
静かな振る舞いをして。

ただ彼女はよくしなだれかかってきた。


気持ち悪かった。
緑色の、泡がぶくぶく沸いている沼に入り込まなければいけないような感覚。


君は、、

上手い言葉が言えなくていつも突き放した。


悲しい顔も、怒りの顔も、何も出さない彼女。

じゃ、帰るね。

そう言っていつものように帰る・・・。


紀依は話す時はとても饒舌で、僕ととても気があった。

誰も信じられない、、と思っていた僕。

「この人なら何もかも分かってくれる」そう思って。

紀依が自分と違う意見や考えを持つと分かるたびに静かに彼女を攻撃した。
言葉でのものではなかったが。


紀依は面倒臭い顔をして
自分は無知だった、あなたの意見が正しい、と僕の意見を全部受け入れた。

振り、だけでなく『面倒臭いから』心の底から僕の考えを自分に染み込ませていた。

面倒臭いから、だろう。
自分というものを持つと「違う!」と攻撃された時「面倒臭い」から
手っ取り早いのはその人の意見を取り入れることだ。

それが・・・彼女の処世術だったのだろう。


晶さんは本当に私のこと好きなの?

紀依がそっと聞いたことがあり、

照れた僕は「改めて聞かれるとびっくりする」とだけ言った。


「ママでしょ」
刃物で切り裂くように冷たく言い放った、夜。

デートのようなことをした、その帰り道だった。


ママの代わりなんでしょ。晶さん。

背を向けたまま先にスタスタと歩いていく紀依。


いい訳出来ないまま無言でついて行った。


紀依は振り返った。

「莫迦じゃないの。私のこと、好きでもなんでもないんでしょ?
ママの代わりなんでしょ?」

その、月に照らされた顔は・・・

『ほらぁ、ママね、女優さんみたいだって』

母親が自慢していた

「(若い頃の顔にそっくりだ・・・)」


・・・

頭が回らない。

拒んだのは母親がしなだれかかってくるようだったから。

だから気持ち悪いと思った。

「(ひと目で気に入ったのは、、母さんに似てたから・・・)」


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晶「紀依・・・」

晶はもう生命の炎が消えかかっていた。


君はへい・・・ぎでごんなご、、ど出来るひ、、となど・・・おぼわだがっ・・・


紀依は同じような、赤いワインが入っているグラスを奥から取り出した。


それを持ってきて、、

ほとんどうつ伏せになっている晶の前でしゃがみ込んだ。


「もうママは私。

私が主役。そうでしょ?」


晶は最後の気力で言った。

「僕はもう、君を母親だなんてみでなかったお・・・
好きなの?ってぎがれて、、こたえられながったのは
あい・・・してるから」


紀依は初めて驚いた顔を見せた。

無表情だった紀依が・・・。


もう最後だからだろうか。
余裕が出来たのかフフフ、、と笑って、晶は言った。

愛してたのに。可哀想だね。
気付かないままそういう男をこういう風にしてしまうなんて。

「残念だよ」


ガシャンッ!

晶と共にその世界に逝こうとしていた紀依は

毒入りのワインのグラスを落とした。


紀依の血のようだった。


ワインは晶の二度と起き上がることのない体に染み渡っていった。



『好きじゃなくて愛しているから』


自惚れてるわけ。そうやって言えば私が感動するとでも。
男って自惚れ屋よね。

一度憎悪に転じたら元には戻らないのよ。

それでも・・・「ボクちゃんボクちゃん」て言われていた頃の記憶?滑稽ね。
ずっと自惚れてれば。
あの世でも。


激しい憎しみ。

個性、価値観、色々なものを・・・全て粉々に晶に壊されて『人形』になっている紀依。

もう、『人間』ではないのだ。


「・・・・・・」


ワインは引き寄せられるかのように、晶の全身を覆い尽くした。

そんなに量が多い訳でもないのに。


御免。

御免。


御免、、紀依。


それは・・・晶の血の涙のようだった。


 

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