現代ファンタジーのオンライン小説 - ものもの

水滴

洞窟。

彩織「天井から水滴が垂れてきそうね」

・・・

カッカッカッ

先に進んで行く悠悟(ゆうご)。

何だか近寄れない

・・・

彩織(あやり)は疑問だった。

「(なんで?私がとろいの知ってるじゃないの)」

長年の勘で分かる。


悠悟と彩織は対極な存在だった。

例えば何かの発売日。

絶対当日に買う悠悟。


大好きでず〜〜っと待ち望んでいたものでも、

「中古になったら安くなるからそれまで待ってよ〜っと」
と、1年も2年も経ってからやっと買う彩織。


このふたりが何故か婚約した。


竜肝(リンドウ)の月が丁度結婚に向いているとのことで、

(竜肝の月=8月)

その日をぼーっとふたりで待っていた。


ふたりは赤ちゃんの頃からの付き合いだ。

病院のベッドでお母さん同士が同じ場所に寝かせていたら、悠悟が彩織の顔に唾を掛けた。

悠悟母「やだっ!コラ何してるの!」

彩織母「あれはぁ〜ホラあれよ。えっと。縄張り・・・何だったかしら」

余りに悩んでいる様子に、

マーキング?

と言う悠悟の母親。

「それそれ!」

と声を上げる彩織の母。



結局、ふたりは赤ちゃん〜社会人までずっと一緒にいる。


ふたりは登山が大好きで、様々な山を登った。

そんな時、ある山で暗い洞窟があるのを発見。入ったのだ。


『天井から水滴が垂れてきそうね』

冒頭の台詞に戻る。


勘弁してくれというくらい何ひとつ口を利かない悠悟。


くるっ!

悠悟が振り向いた。

「俺もう帰る」

険しい顔。


は・・・?

ぽかーんとする。

・・・

悠悟はこんな風に突然怒るような人間ではない。


呆気に取られていたが。

颯爽と去っていく悠悟を追う。

「待ってよ!ちょっと。待って。待って!」

怒っている理由は分かる。

今は竜肝の月の2日目。


彩織は悠悟を追うのをやめた。

「(ゲームの発売日じゃないのよ?)」


悠悟がいなくなって、しーんとなる洞窟にいつまでも突っ立っている彩織。

新婚旅行地とか

指輪はどれにするかとか
(これに一番こだわっている)

他にも色々・・・。

「(たくさんすることあるのに。何も考えてないのかしら)」(多分そう)


彩織にはどうしても譲れないことがあった。

数字、である。

数字には意味があるような気がして、結婚の際には「慎重にしなきゃね・・・」と深く考えていたのだ。

そして考えた結果、「竜肝の月8日」が一番いいと判断した。


私は。

ゲームとか本とかと一緒なの?

ものと一緒だなんて・・・

結婚というのは結構なイベントである。
マンガの発売日のような扱いを受けているのが「大切にされていない」感がして虚しくなってくる彩織。


とりあえず、、と歩き出す。


ハッ

「(違う!付き合いが長いから『いかに私がのんびりゆっくりしているか』を知っているのは悠悟なのに。
どうして?って)」


『(なんで?私がとろいの知ってるじゃないの)』

先程の、自分の心の声を思い出す。

(とろい・・・)


彩織はいつもゆっくり行動するから。今回の事にしてもゆっくりなんだろう。

・・・と、分かるのだ。
悠悟なら。


信じられない!

「(そんなの忘れるくらい、、私と結婚したかった訳?)」

『俺もう帰る』

・・・


ピトーン

『天井から水滴が垂れてきそうね』

のあの、水滴が落ちた。


・・・

「(でも、この日に結婚する、って決めたら
その日が来る前に飽きちゃうじゃないの)」

いきなりサプライズでその日とか次の日ならともかく、
1週間後の何日だの決められると、

その日が近付くにつれ、「面倒臭えぇ〜〜」となる。

そういう人間の心理はないだろうか?

この日、とか日付けを決められると人間は弱い。


彩織「(だから面倒が無いように)」

日付けを告げずにサプライズが一番無難だと思ったのだ。


どうせ私なんていつか「古女房」になるんだし。

「新妻」からね。

そのうち、、私が古くなっていくことは分かってるのよ


だから、少しでもこういうのは凝らないと駄目でしょ。



彩織=新しいものも、いずれは古いものになっていく。
ならばこれから10年20年後に出てくる新しいものも全部「古いもの」だ。
それならば新しい古い関係なく、「好きなもの」を選ぶべき。

悠悟=日進月歩。日が経てば素晴らしいものが次々と出来てゆく。新しいものを追えば常に人類の発明した心地良い空間、感触を味わえる。


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カチャッ

『もしもしぃ』

『  』

『もう、竜肝の月だったわね』

『ん。そうだったか?』


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彩織「飽きてもいいけど。
浮気は無機物だけよ!有機物、、動物にならいいけど。
有機物への浮気は駄目よ!
離婚よ離婚!」

悠悟「心得ます」


どうせ古女房にされるのを分かってて、あえて言う彩織。


何故か野球スタジアムで語り合っている。
(彩織が大の野球好き)

「マーキングされた弱みね。
普通、男の方からプロポーズするもんでしょ」


ピトーン

「え?」
空を見上げる彩織。

晴天だ。

「一粒雨?」


ピトーン・・・

あの日の水滴。


マーキングね

ひとりごとをつぶやく彩織。


 

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