現代ファンタジーのオンライン小説 - ものもの

龍と香

君は何故、息子との婚儀に賛成した。

あの日の義渠(ぎきょ)、朧浪(ろんらん)の父。はそう言った。

龍のような目。

コウ「(怖い。見抜かれてる。私が人外のものだっていう)」

・・・

変な風に答えたらこの場で刺客とかに切り付けられたりして、、などと考える。

コウ「(怖い・・・)」

義渠は引き続き少しも目を逸らさずにコウを見詰めている。


うう

キッと目を合わせ、それでも言う言葉が見つからずにただ見詰め合う形となった。

何故か横にいた朧浪はこの静かなやり取りに疑問の意を示さず、普通だった。

朧浪「観光客です。爸(ティエ)。
あの島にたまたま観光客が来まして。たまに来るのです。
それがこちらの「洋香(ようこ)」だった訳です」

天涯孤独の身だとか日本人だということしか分からないとか
家柄は良い気がしますよ、とか小意気に笑いながら言った。

が、少し朧浪が義渠に対して汗をかいている。


勝てない山に登る者はいない。
登る気は御座いません、彼はそういう意思を義渠に示していた。


義渠はまたコウを見た。


「何が目的だ」

義渠は何かを知りたいようだ。

コウ「お、恐れながら。海の神とご子息が瓜二つで。それで結婚を・・・
御免なさい。動機は不純ですし
私があやしいとおっしゃるならすぐに追い出して下さって構いません」

普通ならあやしいと思うな。
身元不明の女を息子にやる奴などおらん

立ち上がって両手を後ろに組み、そっと室内をあるく義渠。

・・・

「海の神とは何だ」
今更なことを言う義渠。

ざざん

龍が海から出て、波が荒れ狂うのを思い浮かべてしまう。

溟渤(みんお)様という、海の神です。
あ、あの・・・

すごい場なのに顔がポーッとなってしまうコウ。

そ、その
「大好きな人で、、あの、、」

・・・

特にたじろぎもしない男ふたり。


義渠「海の神から何かもらったな?」


凍りつくコウ。


大切な何かを。

「それを、、ビジネスだと思ってくれればいい。
こちらに提供してくれないか。
たまにでいい」

機械のようにしゃべる義渠。


あ、あれは大切な・・・

「出来ません」静かに言うコウ。


・・・

「ならこの話は白紙だ」

義渠はやはり抑揚の無い声で言う。


朧浪が「爸!」と駆け寄る。

義渠が背を向けてドアに向かおうとしていたのだ。

「私はコウ・・・洋香じゃないと駄目なのです!洋香じゃないと・・・」

全然動じないで振り向く義渠。

「おまえはただ身代わりを作りたいだけだろう」

朧浪は う・・・という音の無い発声をした。


いい加減、忘れろ
見苦しい。

義渠はくるっと背を向けてドアに向かった。


コウ「あの!」

でかい声を張り上げる。


史家ともあろう組織が、、私のようなものの力を、、力を借りたいと?

「どどどどどんなにじゃ、弱小なんですかぁ!」


さすがに義渠は振り向いた。


私は

「おまえさんの持っている力を過大評価した覚えなどない」

ビジネスだと言っておるだろう。
そちらの力を提供してもらう代わりに、息子との結婚を許す。


まぁ
おまえさんが本気で朧浪を相手にするとは思わんがね


朧浪は普通だったが、これにはコウがカーッとなった。

コウ「む、息子を!
父だからって偉そうなんですよ!
父はそりゃ、、そりゃい、偉大ですけど!
そうやって息子を抑え付けるのって、、

どんだけ弱いんですか!
弱虫!!」

最後が全く決まらない。

さすがに朧浪は泣きたくなった。
いい子だからあっち行こうね、とロリポップキャンディーを渡したくなった。


義渠は普通にコウを見た。

「抑えつけてるつもりなどない。

そういう父親と同じにしか見ることが出来ないおまえさんの目が腐っているだけだ」


れれれ?

コウは不思議になった。
こういうやり取りをするとたいてい相手は「こんな奴相手にしてられない」と鼻で笑って去っていくのだ。

・・・

義渠「・・・私は自分の目に狂いはないと思っとる。
人選、、人を選ぶことだ。
おまえさんは良い人間だ」


人外だけど、、と心の中でつっこむコウ。

と同時に何か心の中を色々見抜かれてるなぁ、と驚く。
先に言われるのだ・・・


「(でも)」

『おまえさんが本気で朧浪を相手にするとは思わんがね』

あれはひどいよ!
何であんなこと言うのよ・・・

悶々とする。


ふわりんと花の香りが漂った。

甘い哀しい香り。

人外の力だ。
こういうものを「感じ取」ることが出来る。


『おまえさんが本気で朧浪を相手にするとは思わんがね』

・・・

『おまえさんが本気で朧浪を相手にするとは思わんがね』

・・・朧浪さん、本当は・・・


「(見抜いた上での発言だったのね。表向きじゃ息子を悪く言う発言だけど
そうじゃ、なくて)」

義渠『おおおお、朧浪。(涙ぐんでいる)お前はいつ見ても素晴らしい。我が息子ながら、何て神々しさだろうか。鳳華(ふぉんふぁ)にそっくりだ』

先程の発言を思い出す。
最初に義渠に朧浪がコウを紹介した時に言っていた言葉だ。


コウ「(本当はとても深く息子を愛してるのよ・・・。でも感情をそのまま出せば、付け入られる世界。上手く相手に伝えないといけないのね)」


コウはその義渠の偉大さに身震いがした。


はかなく、、怖い香りもするこの花。

でも甘い。
透明で、、愛しくて。

誰もが隠したい、、はかない花。紙くずのような


「(朧浪、さん・・・)」


改めて、横にいる男性は「溟渤」ではなくて「史 朧浪」という男性なのだと、、気付かされた。


 

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