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強いから

当然のことではあるが、朧浪(ろんらん)は実業家であった。

病に侵される前までは。


朧浪「(嘘ついた)」ひとつ

ひとつかどうかは分からないが。

「・・・」

母親との関係はもっと複雑だ。
とても・・・
億劫になるほど


彼の母親は若年性アルツハイマー型認知症、などではない。


コウは何故読み違えたのか。


あれは・・・

あの日は・・・


黒い血の海の中、母親は倒れていて、多くの人たちが集まっていた。

朧浪は10歳だった。


母親は頭を・・・で撃ってこの世からいなくなろうとした。

何を悩んでいたのかは知らない。

結局未遂に終わり、現在のように、、なってしまったのだ。



口からよだれが垂れ、常に爸(ティエ)のことではなく、
朧浪のことばかり話した。

爸(ティエ)=中国語で「お父さん」。



ろんらん、、ごめんねぇ
わるいおかあさんだった。
ごめんねぇ

そうやって泣く、こともあれば

わたしだってたいへんだったのよ。あなたがいるからわたしのじんせいめちゃくちゃになったわ

と鬼神のように怒り狂うこともあれば、、

あなたはわたしのてんし。
いますぐだきしめてあげたい〜

と頭悪く笑顔を振りまくこともあった。



ずっと「女」でありたいと思っていたのに「母親」になんてなるから・・・
自分を大切にしなかった罰だな。

朧浪「(おまけに子供まで作って。妈(マー)は賢い人だと思っていたのに)」

妈(マー)=中国語で「お母さん」。


朧浪は妈が大好きだったので良く見ていた。

本当は「女」でありたいという欲がすさまじいのに、「母」であろうとする自分に、「母」でいなければいけない自分自身に、すごく苦しい思いを抱いていたことを。


あの事件があっても子供相応には驚かなかった。

朧浪はただ、「生きていて本当に良かった」「これでもう「母親という枠」に捕らわれずに済むな」と思った。


他にも色々と黒い噂はあった訳だが。
この事件の。           


朧浪は史家次期総帥・・・の候補として、どう考えてもアホの片鱗もないくらい真面目に仕事をこなした。


ただ、20歳を超えたあたりからある野望を持ち出した。

そしてそれは25の時に見事に叶えられた。
日頃の行いがとても良いのだろう。


朧浪「(そろそろこの世から去りたいと思っていたんだ)」


少し寂しいがまぁ良かった。

仕事のしすぎが祟ったのか、或いは黒い人間関係が渦巻く史家内である。
「(食べ物に毒を仕込まれたか)」

単純に病魔にたまたま侵されたのか。


残り数ヶ月の命、となった。

彼の望み通り。



もう好きなように生きた。

子孫を遺す気もない。

最初から存在しない方が面倒臭くなかったな。




びゅうぅぅうぅ!

あの日は海の風が強くて。潮の香りも妙に強かった。


引き寄せられるように浜辺に降り立ち、コウという人外の生物、くらげ女に出会った。


遠い昔、少年の頃に出会った、20歳くらいの人魚っぽい生物。

「(初めは気付かなかった。頬に口付けをされて思い出した)」

芳香が漂うような甘い透明な記憶。



何故か懐かしい感触。感覚。


妈・・・



その少女・・・というか女性というか。傍にいて欲しいと思った。

短い命、遠い昔の少年の日に出会った、、懐かしい存在。

この生物(生物)と一緒にいられたら、、もう本当に満足だ。


名前は洋香(ようこ)。

コウは溟渤(みんお)という海の神と瓜二つという理由で朧浪と関わることになった。



一緒になれた・・・

「(だけど、、コウの心は)」

コウの心は。

・・・

・・・

朧浪は溟渤という海の神がムカついてきた。

最初に出会った時の、本当に嬉しそうな顔。

大好きだという赤い顔。


愛したくないけど、愛されたい。
好きになりたくないけど、好きになって欲しい。



浮気ばっかりして・・・

朧浪は頭を抱えた。

(というより、、溟渤ひとすじであって、「ばっかり」ではない)



朧浪はコウを呼んだ。


「なんでしょう」

明日、時空を超える旅に出る。そのための準備やらで、てんてこ舞いのコウだ。


朧浪「いや、海、キレイだなって」

・・・

ざざん

ぼーっと海を見るふたり。


「・・・私は溟渤様だけです。あの人じゃないと駄目なんです」


すごく腹が立つ。
勝手にしろよ。


心が読めるのは人外の生き物だからだろうか。

状況だとかにもよるだろうが。


無言の空間の後、コウは去って行こうとした。


待てっ!

朧浪はコウを後ろからひっつかみ、そのままふたりは転倒した。


コウ「げほっげほっ、げほっ、げほほっ」


朧浪は海の泡だらけだ。

そのまま立ち上がらず、海水が砂を流してくれるのを待った。


「コウ・・・。

コウ。・・・。

考えるな。思い出すな。語るのもやめろ。話すことも禁じる。もう二度と奴のことを言うな。厭なんだ!もう厭なんだ!」


「だが断わる」

スックと立ち上がり、テクテク向こうに行ってしまうコウであった。


 

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