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じょうげん

安曇(あづみ)。

只野安曇。

高校2年生。

存在感無しの人間。である。


彼は相当な美男だった。

森鴎外が「詩人でもない限りその容姿を表す言葉が見つからない」とエリスを言っていたような

そんな容貌であった。
が、存在感がないため、誰も彼がこういう顔してただとか全然覚えていなかったし、

そもそも「気付かなかった」。


パッとしない顔だとかならともかく、、目立つ容貌なのに全く気付かれないところがもう
真性、と言えるだろう。


洋子も、一緒に住んでいるにも関わらず彼の美男ぶりに全然気付いていない。

(・・・)


背丈も高く188cmあった。

小さかったら「小さいから目立たなかった」と存在感の無さのひとつとしてそれを当てはめることが出来たであろう。

勉強も常に上位3位以内に入っていた。

が、誰も名前を覚えない。


普通「またあいつ1位だ!」とか「いつも上位にいるよなー」だの

上位3位以内に常にいたら目立つだろうし、どう考えても名前を覚えられる。


誰も、「只野安曇が頭が良い」というのを知らなかった。

全国模試で2位を取ったことがあった。
だが周りはそうなんだ、と思ってすぐに忘れた。

妬みではなく、純粋にどうでもいいと思ったのだ。


家も富豪と言っていい程の大金持ちなのに、誰も妬まない。興味を持たない。

普通は目立つのに。

「知らない」のではなく「興味を持たない」のだ。皆は。


スポーツも得意で、
空手部に所属しているのだが、全国大会で何度か準優勝している。

伝統空手と極真空手とあるのだが、両方とも。だ。

なのに誰ひとり「またあいつだ!」とか
全国レベルにも関わらず・・・
だ〜〜れも名前を「覚えなかった」

こういう人が準優勝したんだ、とは思う。

のだが、すぐに忘れた。

優勝した人だとか、上位の人間たちはすぐに名前を覚えられるにも(略)


だからと言って、決して嫌われてるとか避けられてるとかは無い。

そういうのは一切無いのだ。

むしろ一瞬一瞬のちょっとした、お店に入って店員と話すだとか、初対面の人間と話す時だとか、、そういう場において皆は「落ち着いていてとても素敵な人、良い人」という印象を持つ。

例えば変わった人だとか、変な人、嫌な人、、など マイナスなイメージは一切持たれない。

むしろ素敵な人・・・とは一瞬思われるのだ。
すぐに10分くらいで忘れられてしまうが。


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生まれる前に、人間を猿や猿人や原人に視える不思議な力を全部ごっそり、洋子は安曇にあげてしまった。


そして、欲望の赴くままに、「存在感」やら「感情」やら「欲」やらを奪い取った。


代わりに、人生の最後で得るような「無我」だとか「冷静さ」とか「無常感」とか

そういうのをまるごとあげた。



こうして、安曇は感情も欲もない、存在感の無い人間として生まれた。

妙に冷静で無常感を持っている冷めた人として・・・


(前回まで)



しかし、、洋子はあほだった。

「(確かに大切なもの、、たくさん奪っちゃったけど、、

そのせいで人生つまらなかったかもしれないけど、、

でも誰かに獲られなくて良かった・・・)」


存在感が無いのは「誰にも注目されない、好かれない」ということである。


「(私が独り占めなんて〜)」両手で顔を覆うあほひとり。


確か羊水牧場(生まれる前に魂たちがいる場所)でも

べぇた(安曇)を独り占めしたいとか神様に言ってたような・・・


安曇をイヌやネコだとでも思っているのだろうか?

いいや、ハムスターだと思っているのである・・・


可愛いハムスターが悲しんでいたとして、、

苦しんでいたとして、、(大きさも小指サイズくらい)


あづみぐぅううぅううんんん(泣)

となってしまうのはしょうがない、、ことかもしれない。



安曇は洋子のそういうところに気付いていたが、そもそも感情がないので

ハムスターか。可愛いな

ぐらいしか思わなかった。



先日の洋子の発言。


あれは認められたのだろうか

それとも莫迦にされたのだろうか


感情がない人生を送ってきたのである。


異性同士が交し合う感情というものが良く分からなかった。


自分は嬉しい、と思ったけど

それは自分が卑屈になっているからなのだろうか、とか

訳の分からないことを考えていた。


ひとつ言えることは

「彼女には永遠に勝てない」

ということである。

彼女は1位で、自分は2位である。


永遠に届かない天・・・


宇宙。


縦の果てに彼女はいる。

手を伸ばしても伸ばしても

登っても登っても

飛んでも飛んでも・・・


届かない


でもすぐ傍にいて、

彼女はすぐに自分の体に触れてくる。


「安曇君」

そう言って、、


何をされても

どんなことをされても、

敵わないと思ってしまう存在。


状元(じょうげん)。

昔の中国で世界一難しいとされた役人登用試験。

科挙。
その、首席合格者をそう呼ぶ。




君は ずっと状元だよ。


まず君は 君自身を状元にして、それで次に俺を榜眼(ぼうがん)に、、してくれるか?


(榜眼(ぼうがん)=次席合格者)



亀裂が入り、心が痛み出す。

感じたことのない頭の痛み。

楽しいことを考えている裏で、たまにこういう風になる。


洋子が恐い。

洋子に壊される。

洋子に何かされる。


ひたすら洋子に怯えた。


 

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