龍城(たつしろ)家。
その長子、秀壱(しゅういち)。
彼は高い身分の家に生まれ、極めて高い能力を持っていた。
生まれつき天才なのに、血のにじむような努力をする、、というタイプで
結構「好かれやすい!」という人間には程遠い・・・そんな人物であった。
前者なら「余裕があって格好良い」と言われ
後者なら「真面目で努力家」と尊敬される。
両方あるのは何となく、余裕が無いし真面目で努力家というよりせっかちな人、・・・という印象を与える。
彼にとっては周りの人間全員が何かしら「劣」を持っていて
均一に見えた。
劣の人間たち(これは劣っているという意味で使っているのではない)が歩いている。
というのが、昔からの秀壱の世界観であった
ハッ
或る日、新しく入ってきた女中を見掛けた秀壱。
全然普通で、どこもかしこも平凡で全く目立たないタイプの女性だったのだが。
ひどい衝撃を受ける彼。
秀壱「(劣、がない!)」
もちろん、『優』だってひとつもない。
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女中「え?」
紅葉の舞うとても美しい場面だった。
偶然にも。
秀壱「君の名前をもう一度・・・」
・・・
「均(きん)です。皆沢 均(みなさわ きん)です」
色とりどりの、、しかし少し古い感じの木の葉たちが
ふたりを包むように舞った。
まだ、、神代(かみよ)の時代だった頃の紅葉の舞がこうだったのですよ、と問い掛けるような
そういう木の葉たちの乱舞。
均は、容姿、特技、教養、社交性、何もかも平均だった。
暗くもなく、かと言って明るくもない。
つまらない人間かと思えば、たまにとても面白い面を見せる。
何ともBalance(←ブリティッシュで)人間であった。
当然、秀壱は『たったひとり飛び出ている女性:均』に惹かれた。
周りが皆同じで、ひとりだけ違う人間がいれば何となく目が行くものであろう。
男としての魅力は有り余っているのに、血のにじむような「好きな女を振り向かせるための努力」を
し出す秀壱は当然ながら均にドン引きされ拒絶された。
(そらそーだ・・・)
アプローチの仕方が全く分からず、且つ
立場上『女なんて勝手に向こうからやってくる』の位置にいざるを得なかった秀壱は・・・
全く成す術もなく。
・・・
悩んだ挙句に均に勝手に手を出した。
均は死ぬほど嫌悪感をあらわにして彼に接し、周りの人間たちは
「何か秀壱様が均さんの大事なものを壊したり、或いはひどい言葉を言ってしまったの・・・
だろう」
と予想した。
そして大層心配した。
秀壱「え?」
ある桜舞う日。
均は秀壱からの想いを受け入れる、と言った。
求婚を受諾する、ということである。
(求婚断られたのに怒らずに雇ってた秀壱すごい・・・)
「(大きな不幸がやってくれば、大きな幸せが代わりにやってくるものだわ)」
と考えたのである。
きっとこれからは幸せだろうから、楽しくしよう。と考えたのだ。
均は「言葉に出来ませんて」というくらい秀壱から愛され、
何となく均は不吉な予感を感じた。
幸せすぎるなら、すっごい不幸が来るのは(略)。
秀壱様が亡くなったらどうしよう、、と毎日心配していた。
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そして
現在―・・・
しわしわで、全然どこもかしこもバランスのない外見、中身の均は
古い小さな丸い鏡を見て、口元のしわを見た。
孫の清子(さやこ)が「おばあちゃんと完全に同じ人を探して、すっごく幸せにする!」と。
今色々愚痴ったところで、過去が戻る訳でもなし、人生が元通りになる訳でもなし。
幸せじゃなかったと悲しくなっても、その現実を受け入れ、
話を聞かされた人間はただただ、慰めるという術しかない。
清子の提案は革新的だった。
『わたしきっと、それだけのために・・・もちろん自分の人生もあるけど
それだけのために、おばあちゃんの孫として生まれてきたんだと思うよ』
そう言った清子は何をひどいことを言われようと、乱暴なことをされようと(極端だって)
悲しい顔をしつつも動じなそう、に見えた。
同情だったらまぁ「そのために生まれてきた」は言わんわな
ふむ・・・と考える。
今更な均。
そんなキャラじゃないし、そんなことしないのに、
ごそごそっと昔の自分の写真を見る彼女。
・・・
均「(結構良い女じゃないかい?
・・・な訳あるかい
あほらし)」
すぐに箪笥にしまい、・・・しばらく散歩して。
帰って来てすぐに、仏壇に座り『愛しい写真』を見てすぐに視線をそらし
(いつも)
線香をあげて、手を合わせた。
均「(おまえさんの幸せなんてどうでもいいから、ほんとどうでもいいから
私を幸せにしておくれ)」
罰が当たりそうな祈りをする均。